となりまちプロジェクト 武蔵野・三鷹・小金井

menu

となりまちプロジェクト 武蔵野・三鷹・小金井

江戸東京たてもの園トークイベント『復元建造物を観察する』

2024.3.30

江戸東京たてもの園で、鑑賞支援の新しいアプリが登場するということで、トークイベントを開催するというお知らせをいただき、行ってきました。 

面白かったのは、やはり藤森照信さん(江戸東京博物館館長、初代江戸東京たてもの園園長)のお話です。藤森さんと市川寛明さん(現在の江戸東京たてもの園園長)、小林愛恵さん(アーツカウンシル東京、江戸東京たてもの園在職中に大銭湯展を担当)のトークセッションでした。その内容をご紹介します。

冒頭、小林さんから、夜に水抜くので銭湯には蓋がないといった銭湯の習慣の紹介がありました。

藤森さんからは、「千住の遊郭の近くにこの子宝湯はあった」と話があり、小林さんが現在アパートになっているという紹介がありました。

藤森さんから、「銭湯を色々と調べて歩いてみたが、大きな土地を必要としている事業なんで、表通りにはなくて、裏通りに立地しているケースが多い、お宮の形をしているようなタイプは東京に限られている。京都あたりの銭湯は普通の家になっている。銭湯は、知ってる人だけが来るところなんで、あまり目立った格好をする必要はないのが普通。東京は、関東大震災で壊滅して、その復興工事のために地方から上京してきた人たちが多くて、 銭湯の競争が起こって、お宮のような目立つものが流行ったという経緯がある。」と説明がありました。 

市川さんから、この子宝湯をここに持ってきた理由を初代江戸東京たてもの園園長の藤森さんに聞いてみたいということで、質問がありました。 

藤森さんからは、「江戸東京たてもの園の敷地が決まって、建物の配置計画を作るので、手伝って欲しいと言われたのが関わったきっかけ。もともとここには小金井公園の中の弓道場があり、すでに森ではなく開けていた土地なんで、ここを下町エリアにしようということで、計画を決めていった。その中で、下町の人が集まる施設ということで、銭湯か寄席がいいなと思った。たてもの園が作られた1993年頃には寄席はもう残っていなかったので、銭湯を持ってくるしかないと思った」と当時を振り返ってお話しされました。

 たてもの園の建物は、そもそも現地で取り壊した時に引き取るというのが原則だそうです。 今使われている建物を無理に移してくるというのは、現地保存が不可能な文化的価値の高い歴史的建造物を移築し、復元・保存・展示する趣旨から、ちょっと違うということのようです。

藤森さんと子宝湯の関係は、「路上観察学会で東京を歩いていた時に、前泊で東京ステーションホテルに泊まっていた。その前の晩に銭湯に入るというのがパターンだった。その中に子宝湯にいく機会があった。路上観察会会で一緒だった林さんが、 銭湯のオーナーの平岡さんと高校の同級生で、子宝湯に林さんと一緒に入った時に、平岡さんの方から『林』と声をかけられたのがきっかけだそうです。その林さんから、平岡さんがそろそろ銭湯をたたみたという話があって、 ここに移築する話がまとまった」と紹介されました。 

子宝湯がこの下町ゾーンの奥にあることの意味について、藤森さんは「下町ゾーンなんで、小金井公園の森が見えてしまうとやっぱちょっと下町らしさが失われちゃう。背が高い銭湯が奥にあるので下町らしい街並みに見えるんだ」とおっしゃいます。

 子宝湯は銭湯の中でも建物の高さが高い方だそうです。江戸期にはガラスもなかったので、銭湯は暗かったそうですが、明治期にガラスが入ってきて、また明治政府が風俗や衛生上の問題もあり、 銭湯に色々と規制をしてきて、そのような背景の中でこの子宝湯のような建物ができてきたようです。 

藤森さんから、野外ミュージアムは世界にたくさんあるけれど、 欧米だと都市の建物を壊すことはあり得ないことなんで、野外ミュージアムに収容される建物は農村の建物になる。農村はやっぱり開発されて昔の建物が失われることがあるので、野外ミュージアムに復元するというのが一般的だそうです。世界でも都市の建物や街並みを展示しているというミュージアムは珍しい存在だといいます。東京の町は新陳代謝が激しいので、古い東京の街並みはこのたてもの園の中にしか残らない可能性が高いと指摘されていました。

市川さんから、デジタル化に対して、藤森さんはどういうふうに考えていらっしゃるのか質問がありました。

今回のイベントは、たてもの園の2つのデジタルの新しい動きがきっかけで企画されました。

株式会社gluonの技術を活用して子宝湯が3Dデータ化されました。子宝湯の3Dデータは、#子宝湯ARから見れるそうです。今はない大黒湯さんもgluonさんのHPからは見ることができます。子宝湯と似ているところを比べたりするのもおもしろいかもしれません。

②2024年4月25日に「江戸東京たてもの園ナビ」という鑑賞支援のwebアプリケーションがリリースされます。このアプリでは、学芸員オススメの見どころの紹介や、ARで移築前の様子が再現されたり、マップで園内の案内をしてくれるそうです。こちらは日本語の他にも英語に対応しているそうで、海外からのお客様にも喜ばれそうです。

藤森さんからみると、やはりデジタル化しても、実際の現物の情報量に比べると情報量は限られてしまう、リアルな物があることの意味があるのではないかとお話しされました。ただ、デジタルによって、東京以外の銭湯との比較とか、海外との比較も容易にできるようになるので、リアルとデジタルを組み合わせることに価値があるのではないかともおっしゃいます。

また、銭湯経営者は北陸出身者が多く、ここの銭湯で働いていた人が独立して新しい銭湯を作ったなどのつながりもあるそうです。こうした銭湯の繋がりもデジタルの力で伝えることが可能になるかもしれないとお話しされました。 

デジタルでいろんな人が見てもらうことで実物を見たいという気持ちになる人も多いのではないかというお話もされていました。

市川さんの方から、開館してから30年経ち、2013年以降、建物の移築がないという状態が続いているので、バーチャルの建物も見せられるという可能性の指摘もありました。たてもの園内は建物が飽和状態のようです。

藤森さんからは、ゴジラがなぜアカデミー賞を取ったのは、日本の特撮の伝統で、ハリウッドと比べてデジタルと実写の間の処理が上手かったから。デジタルとリアルの間をどうつなぐかがこれからの鍵になるのではないかという問題提起があり、トークセッションは終了しました。

トークセッションの後、改めて子宝湯の建物の内部を見てまわりました。七福神の彫刻など見どころを解説してもらうと見方も変わってきます。建物の情報や学芸員さんの知識もデジタルから教えてもらえるのもとてもいいなと思いました。